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社会問題とキャンセルカルチャー

複数のイラストからその特徴を学習し、その特徴に沿ったイラストを出力するというWebサービス「mimic」が、公開翌日に一時停止となった。

背景としてはイラストレーターが、自らのイラストを第三者に不正利用されることを懸念したことだという。 小説投稿サービス「テラーノベル」における、若年者を中心とした権利侵害が相次ぐ事態も記憶に新しく、クリエイターとしては不正利用のハードルをさらに下げるような状況への心証はよくないと思われる。

元々mimicの運営者は、クリエイターに向けたAIサービスを提供する企業であり、mimicの開発動機もクリエイターの生産性向上を目的としていたものであったという。しかしそうであるからには、そういった社会情勢のもとでは、懸念の声は予見できていた可能性があるともいえ、一旦リリースしてから猛批判を浴びるという経緯になったことは残念なところである。

ある商品・サービスを提供してよいかどうかは、技術面と社会面(法規含む)の双方から検討される必要がある。今回の場合は社会面での検討が足りていなかったという誹りは免れない。 むろん、私も技術者である立場から、技術者は技術の向上に努めるべきであり、企画側においてもそれを執拗に妨害すべきではないとの考えではある。しかし、それでもなお、反社会的なサービスを提供してよいということにはならないし、技術者とは違う目線でチェックする存在は必ず必要である。

ただ、今回の問題について、上記事実以上に個人的に残念に思うところは、技術開発やサービスのPRに協力したイラストレーターに対して、サービスに反対する立場からの攻撃が相次いでいるという点である。

これは、特に企業に協力する立場で技術開発をする立場である私としても全く他人事とはいえない。

すなわち、開発に協力したサービスにおいて、社会問題となるべき事態が発生した場合、その開発に携わった者として特定されてしまえば、連帯責任を負わされる危険性があるということになる。

さきの参議院議員選挙の演説中に元首相が殺害される事件があり、その後被疑者が、特定宗教団体への多額の寄付を原因とする家庭崩壊を動機として挙げた。これによって、被害者本人を含め、当該宗教団体と関係を持った政治家に対して非難するような動きが発生してしまっている。 これと同じような動きである。すなわち、ネガティブな社会問題になったものと、過去を含め、一定の関係を持っていれば、それは社会的に抹殺されるべきと言わんばかりの動きになってしまっている。

これはいわゆるキャンセル・カルチャーであり、憂慮すべき動きである。

はじめに断っておくが、私はmimicのサービス停止にキャンセル・カルチャーが関与したとは考えていない。 しかしながら協力者に矛先を向けるのはキャンセル・カルチャーであると考えている。

それが問題である理由として、まず過去は変えられない。 いま関わっている人・企業・団体の背後関係や、それが将来いかなる騒動を起こすかというのを瞬時に判断するのは、多くの場合極めて難しい。また判断できたとしても、それを理由に、予防的措置として関係を断絶するというのもまた現実的な話ではない。 その人・企業・団体そのものが現に起こしている問題については判断ができても。

つまり、自発的かつ直接的に行った行為の結果について責任を問われるならばそれは当然の話である。 そうではなくて、自分以外が行った行為をもって、社会から排除されるとしたら、それはおかしな話だと考える。

東日本大震災当時、私は福島県民かつ東京電力従業員の家族であった。2000年頃、同社発電所のトラブル隠し事件が県内で大きく報道されると、それに起因して学校でいじめを受けるようになった。 昨今の情勢を見るに、このような被害に苦しむ人はますます増えているのではないかと懸念する。真に声を上げなければいけないのは、そういったことが起きないように、ではなかろうか。